備忘録

映画と本の感想を時々書いていきたいです。

「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」ネタバレあり感想文。みんな広瀬すずの存在感に食われてしまった印象。

アニメ映画「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」を見てきたので、久しぶりに感想文を書きます。

1993年に放送され、95年に劇場公開もされた岩井俊二監督の名作テレビドラマを、「モテキ」「バクマン。」の大根仁による脚本、「魔法少女まどか☆マギカ」の新房昭之の総監督でアニメ映画化。とある海辺の町の夏休み。中学生たちは花火大会を前に「花火は横から見たら丸いのか?平たいのか?」という話題で盛り上がっていた。そんな中、クラスのアイドル的存在のなずなが、母親の再婚のため転校することになった。なずなに思いを寄せる典道は、転校をしたくないなずなから「かけおち」に誘われ、時間が巻き戻る不思議な体験をする。声の出演は、なずな役を広瀬すず、典道役を本作が声優初挑戦となる菅田将暉、典道の恋敵となる祐介役を宮野真守がそれぞれ務める。

eiga.com

*レイトショーにもかかわらず客入りはそこそこで、世評の割に観客入っているなーとい思いました。「君の名は。」の二匹目のドジョウ狙いで宣伝して、今のところ見込み通りに動員できているのかな、という印象です。

 *岩井俊二のドラマも小説も未見、予告編以上の事前情報は全く仕入れずの鑑賞だったこともあって、ちょっとついて行けないところも多かった。夏休みを目前にした、少年少女にとっての決定的なある一日を切り取った映画である以上、仕方のない面も多々あるのだろうとは思うけれど、主人公からヒロインへはこの際措くとして、ヒロインから主人公への恋愛感情が何故生じたのかがわからない、ヒロイン以外のキャラクター描写が薄すぎて何故そういった行動をしているのか納得しかねる等々。

また、今作においてはシャフトの美点でもある非現実的な背景描写が、今回に関しては完全に作品の足を引っ張っている印象もあります。無駄に長大な通学路や、こんな学校あるか? という円形教室などこのスタジオ特有の演出のせいで、逆に本来非現実性が強調される筈のシーンが観客からは「登場人物がそんなに驚くほど変か?」と思えてしまうようになっている気がする。そして、自分のなかで一番大きな引っかかりは、クライマックスの花火のシーンです。核心的部分なので詳細な言及は避けるけど、それ名前もない端役が偶然にやることでいいの!?

良かった点に目をうつすと、広瀬すず演じるヒロインのなずなは巷でいわれているように声に凄く色気があり、「そりゃまぁこんな娘いたら周りの男子は夢中になるわな」という説得力があるんで、「クラスのアイドル的存在」という上の紹介文も納得……なのですが、なずなの母は「暮らすに友達少ない」とも「彼氏なんているわけない」ともいっていて、「どっちなんだ?」と混乱してしまった。*1

これをふまえると、前述したキャラクター描写の薄さは、なずなという小悪魔的ヒロインの存在感の裏返しなのかもしれない。主役であるはずの主人公や恋敵すら、「グループの絆を大事にするちょっと間抜けな中学生」くらいしか性格が伝わってこなかった一方で、ヒロインも対外描写は薄いにもかかわらず、突拍子のない行動にも違和感がない。ああこの子はこれくらいのことするだろうな……と思わせる説得力があったと思う。総じて、ヒロインのエロさを目当てに見るある種のアイドル映画かな、という感想。広瀬すずはすごい。

*1:これは母親は男に夢中でほとんど娘に気を払ってない、ということを示唆したいがための齟齬なのかもしれない。あるいはアイドルというのは遠巻きに眺めるという意味でのそれなのかも。いやでも回想では主人公たちとピクニック? に出かけているようだったし、名字じゃなく名前呼びだし……

映画「光をくれた人」感想文

デレク・シアンフランス監督の最新作「光をくれた人」を京都シネマで見てきました。

結論からいうと、めちゃくちゃ良かった……。

第一次世界大戦で心に傷を負った男が、オーストラリアのヤヌス島にという僻地の灯台に赴任してくるところから物語は始まる。

ヤヌス島で孤独な日々を過ごすトムは、近隣の島に暮らす裕福な家庭の娘イザベルと徐々に惹かれあっていきやがて結婚に至る。

溌剌としたイザベルと日々を過ごすなかでトムは心の傷を癒やしていくが、幸福な二人をイザベルの二度の流産という不幸が襲う。

二度目の流産の翌朝、波間にたたずむボートの中に死んだ男と赤ん坊を二人は見つける。警察に連絡しようとするトムを押しとどめ、赤ん坊を二人の子供として育てようと迫るイザベルにトムも説得されてしまい、そこから3人の幸福な日々が始まる。

しかし、トムは妻の実家に帰った時に子供と夫を海でなくした女性ハナの存在を知ってしまい家族の幸福と他人の不幸との間で苦しみ始めるが……。

というのが大まかなストーリー。

こういう映画にありがちなのって、主人公夫婦に全く感情移入できなくって彼らの行動我ただただ胸くそ悪く感じてしまう、何なら後半苦しむのも自業自得やん、みたいな感想だと思うんだけど今回はそれがほとんどありませんでした。

映画の前半で描かれる、ヤヌス島での二人の日々がとても幸福そう*1なだけに、不安定な状況でつい(倫理的に絶対アウトなんだけど)魔が差してしまうのも分かってしまうんですよね。

そして、苦悩するトムをよそに母親となったイザベルが自分のエゴを剝き出しにして行動しようとするのも、あれだけ幸福な生活を描かれてしまうとまぁむべなるかな、というか、正直彼女の行動には腹が立つんだけど同時に行動原理には納得させられてしまう……というのが流石の作劇だと思いました。

最後に、ひたすらに被害者である娘と夫をなくした女性ハナ。彼女の大きな決断がこの映画の方向性を決定づけるわけですが、これに納得できるかどうかがこの映画の得点を決めるポイントかな、と。個人的にはこれ以上の着地はない、という素晴らしいラストになったんじゃないかと思います。

 

原題のThe light between oceansもいいんだけど、邦題「光をくれた人」もそれに負けず劣らず、映画を見た人ならピシャリと手を打てる気の利いたものになっていると思います。誰にとって誰がそうであるか、を考えてみるとより一層クライマックスにこみ上げるものがあるというか……。あと登場人物の心情をこれ以上ないくらいに反映したエンディングロールも素晴らしいものでした。

何かと他者との軋轢が取り沙汰される昨今だけに、映画館で見る意議はすごくある作品かなー、と。お勧めです。

*1:特に印象的なのは、宇多丸師匠もムービーウォッチメンで触れられていましたがイザベルがトムの口ひげを剃るシーンでしょう。寡黙なトムが髭を剃らせるというところでどれだけ彼女のことを信頼しているかが視覚的によくわかり、髭をなくしたトムを見て、「赤ちゃんみたい」とイザベルが笑うというのがまた次の展開が分かっているだけにとても切ない……

GP神戸参加レポート

 

5/27,28日に行われたmagic;the gatheringの大型イベント、グランプリ神戸に参加しました。

フォーマットはモダン、使用デッキは青黒フェアリーで、最終戦績は9-6とちょっと物足りない感じ。

 

デッキリスト

メインボード(60)

4 呪文づまりのスプライト
2 瞬唱の魔道士
2 才気ある霊基体
2 ヴェンディリオン三人衆
3 霧縛りの徒党

3 致命的な一押し
3 思考囲い
2 マナ漏出
2 喉首狙い
3 謎めいた命令
1 残忍な切断

4 苦花
1 光と影の剣

2 悪夢の織り手、アショク
1 最後の望み、リリアナ

4 忍び寄るタール坑
3 変わり谷
4 汚染された三角州
4 闇滑りの岸
3 島
2 幽霊街
1 人里離れた谷間
2 湿った墓
1 沈んだ廃墟
1 沼

サイドボード(15)

3 儀礼的拒否
2 外科的摘出
2 集団的蛮行
2 滅び
1 対抗突風
1 仕組まれた爆薬 
1 墓掘りの檻
1 ゲトの裏切り者、カリタス
1 鞭打つ触手
1 軽蔑的な一撃

 

特長はメインボードの才気ある霊気体、アショク、幽霊街の採用でしょうか。バーンやフェアデッキとの相性を意識した構成にしています。代わりにコジレックの審問や祖先の幻視を取れていないため、コンボデッキやコントロール対決は厳しめ。本来有利なところとの相性が怪しくなっているので、ベストな選択だったかは正直疑問の残るところです。

 

一日目

bye

bye

エルドラージトロン×○○

ボロスバーン○×○

アブザンカンパニー×○○

ラクドスバーン○○

ボロスバーン×○○

ナヤカンパニー××

マーフォーク(t赤)×○×

 

bye明け五連勝! からの二連敗でやや失速。とはいえまずまずの戦績で初日を突破できました。

バーンにめちゃくちゃあたったため、才気ある霊気体と幽霊街が大活躍。特に幽霊街は相手の赤白のランドを割ってボロスチャームや稲妻のらせんを無駄牌にできた初日MVPカードでした。

八戦目のナヤカンパニーは初日全勝者の方で、月の大魔導士に特殊地形を咎められてほぼ完封。

九戦目のマーフォークには、メインでのプランニングミスが祟って負けてしまいました。

思考囲い2、土地2、致命的な一押し2、悪夢の織り手、アショクというハンドをキープ。

先手一ターン目に思考囲いを打ち、相手は

波使い×2、潮流の先駆け×2、霊気の薬瓶×1、ヴェンディリオン三人衆、土地

というハンド。ここから薬瓶を抜いたまでは良かったのですが、これで気を緩めてしまい手なりでプレイをしてしまいました。

二ターン目にもう一枚思考囲いを使い、ここで先駆けを抜いてしまったのがよくなかったです。相手の土地がしっかり伸びる可能性を考慮して、こちらに干渉できるヴェンディリオン三人衆を抜いてアショクを活躍させるプランを考えるべきでした。

結局順調に土地を伸ばされて、相手の波使いを二枚とも唱えられてしまい敗北。

二戦目はなんとか取るも、三戦目はしっかりロードを引き込まれて敗北(呪い捉え、アトランティスの王、真珠三つ叉槍の達人、変わり谷で4ターン目に13点! ぐえー)。

 

二日目

ジェスカイデルバー○×○

クラシックアブザン○×○

リビングエンド××

赤緑ヴァラクート××

赤緑ヴァラクート××

青赤窯の悪鬼××

 

二連勝で幸先よくスタートし、これは賞金見えてきたか…!? からの四連敗で大失速。一本ずつ見ると八連敗という残念な終わり方でした。

デルバーやアブザン相手には才気ある霊気体が活躍。相手の復活の声を止めている間にアショクが機能しだしたり、常に除去の的になって飛行クロックで殴りきったり。

リビングエンドにはサイドインした外科的摘出を使うタイミングを間違えて負けてしまいました。

そこからは無残無残。

13戦目のヴァラクート相手には、相手の手札2枚が召喚師の契約と風景の変容というのがわかっていて、こちらは手札に呪文づまりのスプライトと謎めいた命令がある状況で、6枚目のアンタップインランドを引けていれば……というところで闇滑りの岸を引いてしまい負け。14戦目はサイドボード後3マナ目を5ターン以上引けず負け。15戦目も除去を引けず&思考囲いで抜くカードの選択を間違えて負け。

ミスがなければ全然違った、という試合が自分で気づくだけでも3試合以上ある時点でまだまだ実力が足りていません。フェアリーというアーキタイプ自体は全然戦えるな、という実感を持てるので、次のモダンGPがあればこのデッキで頑張りたいですね。

いや、まぁ、面白いは面白いんだけど……「SING/シング」感想(ネタばれ有

昨週末公開、日本でも大ヒット中(らしい)、「SING/シング」IMAX3D・字幕版で観てきました。


映画『SING/シング』予告編

ミニオンズ」「ペット」などのヒット作を手がけるイルミネーション・スタジオによる長編アニメーション。マシュー・マコノヒーリース・ウィザースプーンセス・マクファーレンスカーレット・ヨハンソンジョン・C・ライリータロン・エガートン、トリー・ケリーら豪華キャストが声優として出演し、レディー・ガガビートルズフランク・シナトラなど誰もが知る新旧ヒット曲を劇中で披露する。人間世界とよく似た、動物だけが暮らす世界。コアラのバスターが劇場支配人を務める劇場は、かつての栄光は過去のものとなり、取り壊し寸前の状況にあった。バスターは劇場の再起を賭け、世界最高の歌のオーディションの開催を企画する。極度のアガリ症のゾウ、ギャングの世界から足を洗い歌手を夢見るゴリラ、我が道を貫くパンクロックなハリネズミなどなど、個性的なメンバーが人生を変えるチャンスをつかむため、5つの候補枠をめぐってオーディションに参加する。監督は「銀河ヒッチハイク・ガイド」のガース・ジェニングス。

SING シング : 作品情報 - 映画.com

 

 恥ずかしながら「ミニオンズ」も観たことないので、イルミネーション・スタジオの作品は今回が初鑑賞。結論からいうと面白かった! 面白かったんだけど……! という感じ。

映画.comの紹介にもある通り、今作は、劇場の資金繰りに喘ぐ劇場支配人(コアラ)のバスターが一発逆転を狙って歌オーディションを企画し、それに25人の子供と旦那の世話に日々忙殺されている主婦(ブタ)のロジータ、ギャングの首領を父(ゴリラ)に持ちつつ歌手にあこがれているジョニー、半ばヒモの彼氏とロック・デュオを組む少女(ハリネズミ)のアッシュ、本当はとても歌が上手いのに極度の恥ずかしがり屋が災いして人前で歌うことができない少女ミーシャ、性格に難のあるストリートミュージシャンのマイク、のそれぞれに難を抱えた五人(プラスα)が参加するが……という作品。

まず良いところを挙げていくと、主題がそれなんだから当たり前は当たり前なんだけど歌がいい。クライマックスでしっかり尺を割かれて描かれる主役の五人はもちろん、オーディションでは様々な動物の歌唱シーンが登場するんだけど、それぞれに個性的で良い味を出してる。あと、ここで泣けよ~~、というポイントはやっぱり感動的です。家族以外の前で歌うことができなかったミーシャが初めて観衆の前で歌うシーンとか、ジョニーと父親との和解シーンとか。

ただ絶賛しづらいのが、作中を通じて明示的に成長が描かれている人物が少ないという点。

大人の鑑賞に耐える作品とはいえ、子供向けアニメではあるので最後はハッピーエンドになるんだけど、まあ理窟で考えればその人が解決するのは分かるんだけど、その解決で本当にバスターはいいのか……と思えてしまったりとか。そもそも彼らの再結成の動機が今イチわからないとか、前述した和解シーンは感動的なんだけど、よくよく考えるとそれ以前に親子の対立というほどのエピソードが描かれていない(ジョニーは基本的に親父の命令にはただただ従っているだけなので)ために、後からふり返ってみるとこれ父親がひどいだけでは……とか。色々と欠点が目に付いてしまう。

とはいえ、アニメーションと歌は素晴らしいので、続編が出たら見ようという程度には楽しめました。次作も期待。

ここ一箇月で読んだ本まとめ。

今年に入ってから、booklogで読んだ本を管理している。サイトデザインがシンプルなのと、読書目標を自分で設定できるのがいい。

本を読み終わって登録するたびに、目標達成には○日に○冊のペースで読まなきゃいけませんよー、と教えてくれるので、自分のような怠惰な人間には動機付けとして非常に有効です。もちろんこれには、期限が迫っているのに今のままのペースでは達成が難しい、となった時に、軽薄な新書で一冊を埋めてごまかす、という行動を誘発するという罪の部分もあるわけですが。ただまあ、そこは使う人間の性根の問題であってシステムが悪いのでは全くなし、意識しすぎず有効に使っていこうと思います。

前置きが長くなったけれど、ここ一箇月で読んだ本の感想を書いていきます。

 

浜村渚の計算ノート (講談社文庫)

浜村渚の計算ノート (講談社文庫)

 

 *ライトなミステリーで簡単に数学的素養を身につけたい! という即物的な動機で購入。目的は特に果たされなかったけど、けっこう面白かった。

*主人公の浜村渚が犯人を追い詰める際に使う数学的な小ネタが、素人からすると気が利いてるなー、と思う。

 

ドラキュラ紀元 (創元推理文庫)

ドラキュラ紀元 (創元推理文庫)

 

*ディオゲネス・クラブに属する諜報部員チャールズ・ボウルガードは、マイクロフト・ホームズの命により、ロンドン市内で起こる連続娼婦殺害事件の謎を追うが……

*『吸血鬼ドラキュラ』でヴァン・ヘルシングがドラキュラ伯爵に敗れていたら……? というifを舞台に、キム・ニューマンの吸血鬼への偏愛をこれでもかというくらい詰め込んだ作品。どれくらい詰め込まれているかというと、主人公たちをのぞくほぼ全ての登場人物に小説、映画、史実等々の出典があり、本編550頁に対して登場人物事典が50頁(訳者の苦労が偲ばれる……)に及ぶという大風呂敷。

*これがもう滅茶苦茶面白くてびっくり。今年有数どころかこれまで読んできた歴史改変ものの中でもかなり高得点です。

*このシーン本当に必要? とか後からふり返ってみれば欠点は見つかる話なんだけど、クライマックスに向けての収束が見事すぎて、後半に入ってからは全くダレることなく読破しました。

*知識量・情念は凄いけれど、本筋は大して……という評もネットでは散見されるけど、いやいやストーリーもこれ、決して誰にでも書ける話ではないでしょう、と声を大にして主張したいですね。

 

ドラキュラ戦記 (創元推理文庫)

ドラキュラ戦記 (創元推理文庫)

 

*あんまり『ドラキュラ紀元』が面白かったので、続けてこっちも読んでしまった。

*前作に引き続き、舞台はドラキュラ伯爵の勝利以後、吸血鬼が大手を振って生きるようになった欧州、今回は第一次世界大戦を描く。

*中心となる視点人物はドイツ軍の前線基地の秘密を探るディオゲネスの新米諜報員と、故国を捨ててドイツに流れ着いた作家エドガー・ポー。両者とも序盤でWW1最高の撃墜王レッド・バロンことリヒトホーフェン大尉と因縁を結び、リヒトホーフェンの内面は描かれないながら彼を軸に物語が進行する。

*上の二人と比べると活劇シーンは少ないながら、もう一人の視点人物である吸血鬼の女性記者メアリの権力に対峙する様も格好良い。

*前作があってこその物語ではあるんだけど、こちらの方がよりエンタメとしての出来は高まっているように思う。一作目のハードルを軽くこえてきていて凄いわー。

*吸血鬼に対する偏愛は前作に引き続きなんだけど、それ故の、というべきか、第一次大戦という舞台であるがゆえの、ゴシックなものに対するいっそ酷薄とも思える描写が素晴らしいです。オタクは自己否定に弱い……!

 

 *人気ライトノベルシリーズの5作目。面白い、なんなら勢いで泣かされたくらい面白いんだけど、如何せん現実の将棋界をもとにしたネタが大体察せてしまうが故に今イチ乗り切れない作品。

*どうしても元ネタになっている実在の人物と、作中の人物が重なって見えてしまうがために、ライトノベルの過剰な描写が鼻についてしまう(その意味では、今回の敵役についてはいっそ清々しいというか、ここまで開き直るなら許せるわと逆に思えた)。とりあえず対局中に喋るのはやめてほしい……。

 

アリス・ザ・ワンダーキラー

アリス・ザ・ワンダーキラー

 

 *若手ミステリー作家ではいま一番好きな作家の最新刊。にもかかわらず出版から半年経ってようやく感想を書き始める腰の重さよ……。

*ミステリーを結局キャラクター小説として読んでしまう人間なので(なので、早坂先生の作品では飛び抜けて『虹の歯ブラシ』が好きです)、論理パズル的な作品はなかなか評価が難しい。でもクライマックスの軽さも含めて決して嫌いではないです。好きです。もし続きがあるのなら、もちろん買って読みたいです。

 

 

ストーカー (ハヤカワ文庫 SF 504)

ストーカー (ハヤカワ文庫 SF 504)

 

*宇宙人との接触の痕跡ではないかと推測される<ゾーン>が出現した地方の村を舞台に、<ゾーン>から未知の物体を回収することを生業にする、ストーカーと呼ばれる人間の半生を描く、説明不要のロシアSF。

 *そこに生きる人間のことを一顧だにしない未知との遭遇、という、よくよく考えればむしろそっちの方が当たり前なんだけど中々描かれない話で面白く読みました。

*ストガルツキーは課題図書に指定されているので、今後も読んでいきたい。

 

ヒロシマの人々の物語

ヒロシマの人々の物語

 

 *ずっと前に『眼球譚』を読んで以来、ひさびさのバタイユ。人間の死を計量可能な単位として語ることが「人間的」とされ、極限状態のなかで人間がもがく様を「動物的」と位置付ける、日常的な視座を逆転される語り口が印象的。

*人間中心主義への批判という文脈で読むと、上の『ストーカー』とも通ずるものが感じられるかも。

 

このほかにはジェイムズ・エルロイ『ホワイト・ジャズ』、ロバート・F・ヤング『時をとめた少女』、ジョナサン・カラー『ディコンストラクション』などを読んだ。これらについても書いておきたいので、次の記事を早くにアップしたいと思います。

 

 

映画感想文「フランス組曲」

今年から京都シネマの会員になったので、去年までよりずっと気楽に映画がみられるようになった(とはいえ出不精なので、油断してると1箇月丸々映画館に行かないとか普通なのだけれど……)。
ともかく、このブログも良い作品を見たときにはちゃんと更新していきたいですね。


フランス組曲は2014年の映画(日本上映は2016年)。
舞台はナチス占領下フランスの田舎町、戦地へ向かった夫の身を案じながら義母と共に暮らす主人公・リュシルの家にドイツ軍将校が宿泊することとなり、二人は音楽を通じて交流を深めていくが……。

敵国人同士、障害に翻弄されながらそれでも惹かれあう二人の恋愛模様が素晴らしいのは勿論だけど、それ以上に印象に残ったのは義母や隣人といった脇役の人々の、なんといえばいいのか、人間らしさ、としか言い様のない役所だった。
主人公の義母は小作農からの上納金で暮らす大地主でありながら、パリからの避難民がやってくると、それまで家を貸していた家庭を追い出し、二倍の料金で避難民に家を貸し出したり、物資不足のなか金に物を言わせて自分たちだけ食糧を買い集めるなど、およそ善人とは言いがたい人間なのだけど……その彼女が物語の後半に果たす役割がとても印象に残っている。
他にも、登場するシーンは少ないながら、貴族階級であることを鼻にかけた町長や、ドイツ兵と関係を持つ貧農のセリーヌなど、単純に善悪に二分できない人々の姿が胸を打つ傑作だった。また何度も見返したい。

2016年に観た映画をふり返る

昨年劇場で観た映画は十数本だけど、そのほとんどが観てよかったと素直に思える出来だった。自分の記憶の整理のためにも、少しでも多くの人にみてもらうためにも、何点かふり返って感想を書き留めておきたい。

 

■完全なるチェックメイト

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アメリカ出身の冷戦期の天才チェスプレイヤー、ボビー・フィッシャーの生涯を、そのライバルであるソ連出身の世界チャンプ、ボリス・スパスキーとの対戦を中心に描いた伝記映画。

本作品のフィッシャーは、当時人間の知性を象徴するゲームとされていたチェスという競技で、ソ連に水をあげられていたアメリカの、自国から世界チャンピオンを輩出したいという国家戦略に生涯を翻弄された人物として描かれている。

はじめはただ純粋に周囲の人々とチェスを楽しんでいたフィッシャーが、天才少年として頭角をあらわして行くにつれて、国の期待を背負い神経をすり減らしながらチェスを指さざるを得なくなっていく中、次第に周囲との人間関係がおかしくなっていく様が本当に観ていて辛い。*1

原題の「Pawn Sacrifice」が筋書きと完璧に合致していて、良いタイトル付けたな~という作品。何回でも見返したい。

 

完全なるチェックメイト [Blu-ray]

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リップヴァンウィンクルの花嫁

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岩井俊二の最新作。高校の非常勤教師と家庭教師で生計を立てるナイーブな女性、皆川七海(黒木華)は、SNSで知り合った男性と流されるままに結婚するも、義母の策略によって離婚させられてしまう。職も住むところもなくした七海は、何でも屋を名乗る安室行桝(綾野剛)という男に、月給100万円という触れ込みで郊外の城での住み込みのメイドというバイトを紹介される。その城には里中真白(Cocco)という女性が住んでいて……。

2016年は良い映画が沢山出て、その中からベストを選ぶのは本当に難しいのだけど、それでも敢えて一作を挙げるならこれを推したい。

とにかく七海と真白の同居生活の描写が好き。真白を演じるCoccoのメンヘラ演技は流石だし、真白の陽性にあてられて変わっていく七海も最高だし、それを経てのEDも素晴らしい。

序盤の一時間くらいずっとストレスがかかってくるので、人によってはしんどいかもしれないけど、EDを迎える頃にはあの序盤があってこその映画だと感じられるので、長丁場だけど是非見てもらいたい。岩井俊二だけどそんなにカメラぶれたりもしないし。

 

 

Planetarian 星の人

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核戦争で荒廃した近未来の地球が舞台。メインになるのは、星の人を名乗り、各地のシェルターを失われた星空……プラネタリウムを見せながら渡り合う老人とシェルターで出会った子供達との交流を描く”星の人”編で、彼が「星の人」になるきっかけとなった青年時代のエピソード、放棄された都市で出会ったプラネタリウムのガイドとして作られたロボットの少女との交流が合間合間に挿入される。

2004年に発表されたヴィジュアルノベルの映画化作品。ただただ映像化してくれてありがとうという以外に言葉がない。クライマックスでは映画館でみていたのにも涙が顎まで伝うくらい泣いたし、多分今後もこれ以上に映画を観て泣く事はないと思う。

ただこれをみて大泣きするほど感動したのはあくまで原作ありきで、はたして初見で大傑作の太鼓判を押せるかというと残念ながら自信がない*2ので、まぁ次点かなぁというかんじ。

 

 

*1:ネタバレ:中盤でのフィッシャーと姉との対話の場面で、猜疑心からユダヤ陰謀論に染まっていくフィッシャーに対して、姉が「あなたのお父さんもユダヤ人なのに……」と諭すシーンが特に印象に残っている。

*2:あと、当然ながら美少女ゲームを受け付けない人に受け容れてもらうのは多分難しい