備忘録

映画と本の感想を時々書いていきたいです。

「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」ネタバレあり感想文。みんな広瀬すずの存在感に食われてしまった印象。

アニメ映画「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」を見てきたので、久しぶりに感想文を書きます。

1993年に放送され、95年に劇場公開もされた岩井俊二監督の名作テレビドラマを、「モテキ」「バクマン。」の大根仁による脚本、「魔法少女まどか☆マギカ」の新房昭之の総監督でアニメ映画化。とある海辺の町の夏休み。中学生たちは花火大会を前に「花火は横から見たら丸いのか?平たいのか?」という話題で盛り上がっていた。そんな中、クラスのアイドル的存在のなずなが、母親の再婚のため転校することになった。なずなに思いを寄せる典道は、転校をしたくないなずなから「かけおち」に誘われ、時間が巻き戻る不思議な体験をする。声の出演は、なずな役を広瀬すず、典道役を本作が声優初挑戦となる菅田将暉、典道の恋敵となる祐介役を宮野真守がそれぞれ務める。

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*レイトショーにもかかわらず客入りはそこそこで、世評の割に観客入っているなーとい思いました。「君の名は。」の二匹目のドジョウ狙いで宣伝して、今のところ見込み通りに動員できているのかな、という印象です。

 *岩井俊二のドラマも小説も未見、予告編以上の事前情報は全く仕入れずの鑑賞だったこともあって、ちょっとついて行けないところも多かった。夏休みを目前にした、少年少女にとっての決定的なある一日を切り取った映画である以上、仕方のない面も多々あるのだろうとは思うけれど、主人公からヒロインへはこの際措くとして、ヒロインから主人公への恋愛感情が何故生じたのかがわからない、ヒロイン以外のキャラクター描写が薄すぎて何故そういった行動をしているのか納得しかねる等々。

また、今作においてはシャフトの美点でもある非現実的な背景描写が、今回に関しては完全に作品の足を引っ張っている印象もあります。無駄に長大な通学路や、こんな学校あるか? という円形教室などこのスタジオ特有の演出のせいで、逆に本来非現実性が強調される筈のシーンが観客からは「登場人物がそんなに驚くほど変か?」と思えてしまうようになっている気がする。そして、自分のなかで一番大きな引っかかりは、クライマックスの花火のシーンです。核心的部分なので詳細な言及は避けるけど、それ名前もない端役が偶然にやることでいいの!?

良かった点に目をうつすと、広瀬すず演じるヒロインのなずなは巷でいわれているように声に凄く色気があり、「そりゃまぁこんな娘いたら周りの男子は夢中になるわな」という説得力があるんで、「クラスのアイドル的存在」という上の紹介文も納得……なのですが、なずなの母は「暮らすに友達少ない」とも「彼氏なんているわけない」ともいっていて、「どっちなんだ?」と混乱してしまった。*1

これをふまえると、前述したキャラクター描写の薄さは、なずなという小悪魔的ヒロインの存在感の裏返しなのかもしれない。主役であるはずの主人公や恋敵すら、「グループの絆を大事にするちょっと間抜けな中学生」くらいしか性格が伝わってこなかった一方で、ヒロインも対外描写は薄いにもかかわらず、突拍子のない行動にも違和感がない。ああこの子はこれくらいのことするだろうな……と思わせる説得力があったと思う。総じて、ヒロインのエロさを目当てに見るある種のアイドル映画かな、という感想。広瀬すずはすごい。

*1:これは母親は男に夢中でほとんど娘に気を払ってない、ということを示唆したいがための齟齬なのかもしれない。あるいはアイドルというのは遠巻きに眺めるという意味でのそれなのかも。いやでも回想では主人公たちとピクニック? に出かけているようだったし、名字じゃなく名前呼びだし……